バリ島のお面









蜜蝋を塗ると色がよくなった



 これは観光客にたかってくるバリ島の子供から買ったお面。ガルーダっぽい顔つきをしてる。もう14年も2階に飾ってある。木彫りのいいもので、色あせることがない。鼻に近づけると、白檀のにおいが濃厚だった。いい白檀になると末永く残っているものなんだ。しかも馨しい。
 当時まだ僕も子供だったけど売り手の子はもっと小さい子供だった。裕福な国ではないし、いらないもんばかり強引に売り付けてくる子供が多かったけど、そこの寺院の入り口でたかる売り子は、美しい出来ばえのよいものを手に持っていた。
 特にこのお面がかっこよくて、ほしがった。
 父親は、「どうせ見せびらかしているものとは別のものにすり替えるから」と得意げだった。
 なーんだと思っていたけど父親は強引にも「ぜったいそれをくれるのか」とその売り子に聞いた。その子はすんなり「うん・・・」と言った。僕はそれをすり替えられずに買えたのだけど、今思うとすごいかわいそう。せいぜい1000円か2000円ぐらいだったと思うけど、これがそんな値段のはずがない。愛地球博のバリ島ショップではこれと同じようなやつが5万とか8万とかで売られてたし。ひょっとするとあの子は損してるかもしれない。1000円でも損したらすごい大変な世界なのに。あの子、きょとんとしていた気がする。その子が手に持っているそのお面が欲しかったから、ありがとうも言わず奪うようにして手にした気がする。寺院の中に向かう途中、ほんとうにいいのかな…と振り返ったりした。こっち向いてた気がする。
 でも既に次の観光客にたかっていた気もする。そうであってほしいのだけど。
 もう人生の半分以上も前のことになるけれど、もしも本当に奪ったという形になっていたとしたらどうしよう。 …こんなときは神と仏に頼るしかない。どうかあの子に報いがあってください。僕の手に渡ってきたお面よ、おまえが形どっている神よ、僕が想っている分をどうかあの子に届けてほしい。もしあなたが僕よりもほんとうに霊性が高くて崇高な判断力をお持ちなら、どうかいちばんいい風にしといてください。