SPENDOR SP100


spendor classic series
SP3/1P, SP2/3, SP1/2, S3/5, SP100



* SPENDOR *

 スペンドールはBBCの技術者だったスペンサー・ヒューズ氏が1960年代に興した会社で、自分と婦人のドロシーさんの名前をとってスペンドールとしたようだ。サウンドトラックスというプロオーディオの会社の傘下になったのちに手放されたが、スピーカーは今も昔から変わらない環境で造られている。三浦さんによるフィリップスウィスト氏(現オーナー)のインタビューによると、「私にとってなによりも幸運だったのは、スペンサー・ヒューズの手によるスピーカー設計に関する膨大な資料がスペンドールに残っており、昔から工場で働いていたベテラン職人も在席していることです。有形無形の貴重な財産を、私は失うことなく引き継いだことになります。」とのこと。
 SPENDORはKEFやHARBETH、Rogersと並びクラシックのモニターとして確固たる地位を築いていた。イギリスBBC規格のモニターとして製作されたLS3/5でそれぞれ歴史を聴くことができる。「ロジャースはゆるい音、KEFは上品、スペンドールは締まりが有り、ハーベスがその中間的な音」。広い音域をできる限り癖のない正確な音で再現することを目標にしたものだけど、それぞれの気品と個性があり、どれもじっくり聴きこむほどに情熱の伝わる音が出る。「往年の」とか言われるものは概して無色透明からは遠いけど反対に濃い個性に繋がっている。



* SP100 *

 磁気回路はS100Pが原型になっている。S100Pとはドイツ放送連合のモニター用に作られた120/1Aから内臓のパワーアンプを除いてパッシブネットワーク型にしたモデルで、日本ではC.O.T.Yに輝いている。
 キャビネットはS100と同じ材質である。S100は響きがよく懐の深い音楽表現に定評があり、"French Diapason d'or award"を受賞している。S100はS100IIとしてブラッシュアップされ、そのキャビネットを補強しS100Pのバランスのとれた磁気回路と高次に融合したのが現行のSP100になる。
 SP100はC.O.T.Yは受賞しなかったもののノミネートはされていたようだ。スペンドール全盛期の格調高い再生音を最高の濃度で堪能できるだろう。



* Property *

 B&WやLINNなど先進的なステレオサウンドとは対照的に、タンノイやスペンドールはブリティッシュサウンドの王道をゆく。
 SP-100は衒うことなく音楽をオーソドックスにまとめあげている。その雰囲気は暖かく、音触はしなやか。独特の渋さがあり適度な曖昧さは音楽性そのものである。低域は分解能が甘くゆるやかで、ボリュームを下げるとヴェールに包まれる。ボーカルには柔らかさがある。弦楽器にはグレースな芯が感じられる。その弦の彫りが深くて、Aura Stingray 105 Standardで鳴らしたB&W Naitilus 804の音に慣れるとにわかには信じがたいぐらい抉る。振動の彫りが深い。細部は階調豊かに丸められているではなく、じんじん弦が鳴っている。
 ハイスピード系の反応のよいスピーカーは輪郭を浮き彫りにして手に掴めるコヒーレントな音を出すが、こちらは音に真実味があり色彩的には淡くも実質的には濃厚で、噛むほどに味わいが増してくる。物理特性の優れたスピーカーのもつ透明な見晴らしのよさはなく今まで聞こえなかった音がリアルに聞こえてくる面白さはないけれど、今までに聞いたことのない鳴り方をした。音の感触がアナログで、空間音まで濃密で、奥行きが深い。奥行きが深いという表現が浅く思えるほど深い。遠近の分離は一線を画していた。と書くと前へ出る音と背景が前後に分離しているみたいだけど、局部的に見ると互いに相容れないように思える要素すらも絶妙にブレンドし 有機的に結合しているのはフラッグシップたる所以を示すところでした。



* Character *

 キャラクターは素朴すぎて、受身な捉え方ではもともと表現するものがないようにすら思える。スペンドールのようなスピーカーはインスピレーションで鳴らされるものだろう。これは店頭で試聴しても自分なら10秒後に向こうにいってそう。輸入代理店だったサンスイがオーディオフェスタで使っていたけど印象に残っていない。訴えてこないし、ぱっと聴いて「いい音」という代物ではないので。人気のなさもうなずける。
 しかし、スペック的には高くないがよい音であり、その音には内容がある。表層的には質素で平凡だと思えても内的には生理的な音感を外れないバランスが良識的に保たれていて、一つの品格として完成している。声高にまくしたてる衒学の薄っぺらさとは違いこの品格の確かな高貴さはアルセストを思わせる。管弦楽的なコスモスに潜心し、感性へ有機的にシンクロするトレモロを発する。舌にやわらかいがマシュマロのように弾力があるわけではなく、ふんわりと音楽に融解してゆく。分析的ではないが、音の粒子は隣同士でよく馴染み、あらゆる楽音は絶妙な強度を保って演奏され、空間音は楽音の芯を陰で支えている。層々たる音と音はユーフォニーを乱すことなく親密に溶け合い抽象的だが 個々の音は具体的で、意味深に逃げるような表現はしない。きびきびとした音は出ないが自我は凝固しておらずエッジが立たない。素朴でおだやかな美点には自己主張がないため、ソファーから見ると暗示的である。世の中に否定的ではないので近づけばよく聞き取れるが、それは本人にしかわからない事柄で雲をつかむよう。
 分析より詩作の方が遥かに体力を要するように 音楽的なひらめきを機械で表現するのは至難の業で、そのインスピレーションは形にすると動物的で観念への忠実さを欠きやすいが、千思万考し 心血を注がれ 広域にわたってそれが実現されるに至り、SP-100の曖昧さは抽象性としてある種の完璧さをもって具現化している。曖昧な表現も、的確な比喩のように具体性を帯びているものはその抽象性が実体として膨らんでゆく。一旦出来上がったキャンバスの画の上から何度も何度も筆を加え直感的な美からやがて遠のき流転するもまた彩り、考え考え考え抜いた抽象性は、コヒーレントな明快さより一層具体的である。


組み合わせ

日記


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