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『パイドン』
33
名前:
パイドン
2006/12/17 20:08
それなら、ケベス、かれに本当のことを話してくれたまえ。僕は、かれやかれの作品に対抗しようとしてこれらの詩を作ったのではない。それが容易でないことくらい、僕は知っていたからだ。むしろ、僕は自分が何度も見たある種の夢の意味を確めようとしたのだ。そして、もしかしてこの夢が僕になすようにと命じていたものがこの種の文芸であったとすれば、その責めを果たそうと思ったのだ。その夢とはなにかこんなものだった。これまでの生涯において、しばしば同じ夢が僕を訪れたのだが、それは、その時々に違った姿をしてはいたが、いつも同じことを言うのだった。『ソクラテス、文芸(ムーシケー)を作り(なし)、それを業とせよ』。そして、僕は以前には、僕がずっとしてきたことをこの夢が僕に勧め命じているのだ、と思っていた。ちょうど走者に人々が声援を送るように、と。なぜなら、僕は、哲学こそ最高の文芸であり、僕はそれをしているのだ、と考えていたからだ。しかし、いまや裁判も終わり、神の祭が僕の死を妨げている間に、僕はこう思ったのだ。もしかしてあの夢は通俗的な意味での文芸をなすようにと僕に命じているのかもしれない。それなら、その夢に逆らうことなく、僕はそれをしなければならない、と。なぜなら、夢に従って詩を作り聖なる義務を果たしてからこの世を立ち去る方が、より安全であるからだ。こうして、先ず、僕は現にその祭が行われていた神アポロンへの賛歌を作ったのだ。それから、神への賛歌の後で僕は考えた。詩人というものは、もし本当に詩人[作る人、ポエーテース]であろうとするなら、ロゴス[真実を語る言論]ではなくてミュトス[創作物語]を作らなければならない、と。そして、僕は物語作者ではないのだから、手近にあって僕がよく知っている物語、つまり、アイソポスの物語を取り上げ、それらのうちで最初に思いついたものを詩に直したのだ。さあ、以上のことを、ケベス、エウエノスに言ってくれたまえ。それから、さよならもね。そして、もしもかれに思慮があるならば、できるだけ早く僕の後を追うようにとね。僕は今日この世を立ち去るらしい。アテナイ人がそう命じているのだから」
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>>33 > それなら、ケベス、かれに本当のことを話してくれたまえ。僕は、かれやかれの作品に対抗しようとしてこれらの詩を作ったのではない。それが容易でないことくらい、僕は知っていたからだ。むしろ、僕は自分が何度も見たある種の夢の意味を確めようとしたのだ。そして、もしかしてこの夢が僕になすようにと命じていたものがこの種の文芸であったとすれば、その責めを果たそうと思ったのだ。その夢とはなにかこんなものだった。これまでの生涯において、しばしば同じ夢が僕を訪れたのだが、それは、その時々に違った姿をしてはいたが、いつも同じことを言うのだった。『ソクラテス、文芸(ムーシケー)を作り(なし)、それを業とせよ』。そして、僕は以前には、僕がずっとしてきたことをこの夢が僕に勧め命じているのだ、と思っていた。ちょうど走者に人々が声援を送るように、と。なぜなら、僕は、哲学こそ最高の文芸であり、僕はそれをしているのだ、と考えていたからだ。しかし、いまや裁判も終わり、神の祭が僕の死を妨げている間に、僕はこう思ったのだ。もしかしてあの夢は通俗的な意味での文芸をなすようにと僕に命じているのかもしれない。それなら、その夢に逆らうことなく、僕はそれをしなければならない、と。なぜなら、夢に従って詩を作り聖なる義務を果たしてからこの世を立ち去る方が、より安全であるからだ。こうして、先ず、僕は現にその祭が行われていた神アポロンへの賛歌を作ったのだ。それから、神への賛歌の後で僕は考えた。詩人というものは、もし本当に詩人[作る人、ポエーテース]であろうとするなら、ロゴス[真実を語る言論]ではなくてミュトス[創作物語]を作らなければならない、と。そして、僕は物語作者ではないのだから、手近にあって僕がよく知っている物語、つまり、アイソポスの物語を取り上げ、それらのうちで最初に思いついたものを詩に直したのだ。さあ、以上のことを、ケベス、エウエノスに言ってくれたまえ。それから、さよならもね。そして、もしもかれに思慮があるならば、できるだけ早く僕の後を追うようにとね。僕は今日この世を立ち去るらしい。アテナイ人がそう命じているのだから」
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