Pathos e-motion grand
このスピーカーは働いているというよりは酒を呑んでいる



Pathos パトスのスピーカー。イタリアらしい外観 気の造りがいい
定価¥580000
3WAYトールボーイ


 Pathosとはもともと真空管アンプのブランド。ハイブリッド構成のTwin Towersなどが有名で、デザインに見られるその異端的とも言えるささやかな意匠は、さすがはイタリア、Pathosの性格が首尾よく寓意されている。このe-motionというスピーカーも、イタリアらしいピノッキオな木工技術を損ねない、感性の赴くままのとても感覚的なスピーカーになってる。その音ほど外観は異様ではないが、童話みたいにわかりやすい音である。
 …というのは冒頭文として。この異様な音の実態側はどう言い表したらいいものか。こんな色濃い音は聴いたことない。






ラスパーニャ ラ・スパーニャ
グレゴリオ・パニアグワ(指)アトリウム・ムジケー
BIS 300163
★故長岡鉄男氏が激賞したことで、一躍BIS の名を世に広めたLP 時代の名盤。BIS といえば「ラ・スパーニャ」という認識が長く続いていたほどです。録音のクリアさ、内容の斬新さ、いずれも今なお全く色褪せていません。


 ラスパーニャのCDを再生してもらった。この日はこれを持ち歩いていたのだけど、他の店で聴いたスピーカーとはなんだかぜんぜん違うぞ。遠近とか楽器の質感は十分にあることはあるのだが、どこか言ってることが瞑想的だ。あっけらかんとした明るさというより酩酊に似たものがある。なんでここまで果物が甘そうなんだ。たしかにイタリアの音楽はくすぶっておらず陽気なものが多いけど、そこまでは艶めかしくないだろうと突っ込みいれたくなるほど。生のリッチさはとうに超えている。
 同クラスのトールボーイB&WのNautilus 804やPMCのFB1などに比べて豊満な音で、甘いネクタール(神酒)に音素が呑み込まれている部分はあるが、階調も音階もしっかりとしている。トゥルトゥルルしつつも低域たっぷりと出てくる。精確な形を演じているような変な出方をしない。ドゥーンと屈託なしに出る。負けてないと思う。ただ全体的に微細部は不得意なようだ。なかなか気が廻らない。手に届きそうで届かないことが自分にはわかっているかのような哀感漂わす。


 色気に圧倒され、かれこれ5分ぐらい聴いたら既に食傷気味になっていたが、思い返すとこんなにも心を奪われていたスピーカーである。これほどあでやかな音のスピーカーをほかに見たことがない。基底部を彩っているのはエロスかタナトスか。「パトス」とは悟れる者のアパテイアの反対に位置し、人間にとっては必要ではあれどカタルシスで浄化される類のもの。その循環においては良いけど…初めはエロくもすぐさまプロミネンスが飛び散ってタナトスになってしまうと、スコラ学派ではあまり肯定的な意味合いでは考えられていなかったものの範疇に収まる。いわば、長続きしない種の快楽として。
 でも忘れた頃にまた会ってみたいと思える不思議な魔性。このスピーカーを思い出すとタンホイザーがヴェーヌスベルクの官能的な洞窟の中でヴェーヌスの愛に溺れていた日々のように僕もインドのダージリンとかオームカレシュワに行ってシヴァ神とかカーリー様とか色の濃い神様にのめりこみたいのだ。Θ_Θぼよーん













カーリー様 かなりキテる